韓米FTA:ネットに広まるデマ、その真実とは…?!
韓米FTA(自由貿易協定)で最大の争点となっている「投資家対国家の訴訟制度(ISD)」に対する誤解がネット上で急速に広まっている。韓国政府関係者は「デマの悪質さは2008年の狂牛病(牛海綿状脳症〈BSE〉)問題と同じくらい深刻なレベルだ」と述べた。
(1)ISDの締結は司法権の放棄なのか
ISDとは国際機関の仲裁で投資などに関する紛争を解決する制度のことで、海外に投資した企業が現地の政府から不利益を受けた場合などがその対象となる。ところがこのISDについて、民主党などの野党は「紛争を韓国の裁判所で裁くことができない」ことを理由に「乙巳条約(1905年に韓国の外交権を日本の外務省に一任した条約。第二次日韓協約)と同じようなもの」などとして強く反対している。しかし韓国がすでにFTAを締結したチリ、シンガポール、インド、ペルーなど6カ国のほか、日本や中国など81カ国と結んだ投資協定にもISD条項は含まれている。EU(欧州連合)とのFTAにはISDは盛り込まれていないが、韓国はEU加盟27カ国のうち22カ国とISDと同じような投資保護協定(BIT)を結んでいる。
(2)米国は他国とISDを締結していないのか
米国は現在11の国とFTAを締結しているが、そのうちオーストラリアとイスラエルの2カ国を除く9カ国との協定にはISD条項が含まれている。これについて通商交渉本部のキム・ジョンフン本部長は「オーストラリアは外国人から国内資源を守るために投資保護の仕組みを放棄し、イスラエルは安全保障上の理由で協定にISDを含めなかった」と説明する。世界的には2100以上の投資関連国際協定でISDが採用されている。
(3)米国が紛争の結果を左右するのか
紛争が発生した場合、世界銀行の国際投資紛争解決センター(ICSID)が仲裁を行うため、上記のような誤解が生じているようだ。しかし、米国の投資家たちはこれまでICSIDで15回勝訴しているが、22回敗れている。現在世界144カ国がICSIDに加盟しており、韓国も1967年に加盟した。高麗大学のイ・ジェヒョン教授は「米国企業にとって一方的に有利な判決を下すと、その判例は米国政府にブーメランとして帰ってくるだろう」と指摘する。
(4)ISDによって韓国の公共政策が無力化するのか
ネット上には「米国の保険会社が韓国の健康保険を提訴することも考えられる」との話が広まっている。これについてキム・ジョンフン本部長は「健康保険などの社会保険はISDから除外される」と明言した。公衆保健、安全、環境、不動産政策など公共の福祉を保護するための政策は、ISDの提訴対象にはならない。
(5)法務部やハンナラ党代表もISDに反対
与党ハンナラ党の洪準杓(ホン・ジュンピョ)代表は2007年、ISD条項について「見方を変えれば、韓国の司法主権全体を米国に与えることになる。このような協定は結ぶべきではない」と発言した。これについて同党のキム・ギヒョン議員は「ISD条項そのものに議論の余地があるとの点を指摘したものだ。ISD条項が含まれたFTA全体に関して言えば、当時から通過させるべきとの考えを持っており、今もその立場に変わりはない」と説明した。当時、法務部(省に相当)がISDに反対する意見書を提出したという野党・民主党の主張について、法務部は「司法主権の侵害という判断を下したこともないし、そのような立場に立ったこともない」と反論している。
(朝鮮日報)
解説FTA・EPA交渉
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著者略歴 (「BOOK著者紹介情報」より)
渡邊 頼純
現在、慶應義塾大学総合政策学部教授。1953年、大阪府大阪市生まれ。1976年、上智大学文学部哲学科卒業。1976年‐78年、ベルギー政府給費留学生として大学院College of Europe(経済学専攻)に留学。1978‐79年、欧州委員会産業政策・域内市場総局研修員。1979‐85年、上智大学大学院国際関係論専攻博士前期課程ならびに同博士後期課程に在学(国際学修士、博士候補)。1985‐88年、ジュネーブ国際機関日本政府代表部専門調査員。1988‐90年、GATT(関税貿易一般協定)事務局Economic Affairs Officer。1990‐1995年、南山大学経済学部専任講師・助教授(1993‐95年南山大学ヨーロッパ研究センター長)。1995‐98年、欧州連合(EU)日本政府代表部専門調査員。1998‐2002年および2004‐05年、大妻女子大学比較文化学部教授。2002‐04年、外務省大臣官房参事官兼経済局、外務省参与。2005年より現職。専門分野は国際政治経済論、国際通商法、欧州統合論(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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