消えたホンダ販売店の2月…電子制御リコールの深刻な波紋
昨年9月の新型「フィット」発売以降、販売台数を伸ばし続けていたホンダ。消費増税を目前に控えた2月、予想と裏腹に販売現場の勢いは急失速した。関東・甲信地域を襲った大雪、そしてフィットで3度目という異例のリコールが理由だ。
「2月は忙しくなるぞ」。関東にあるホンダ販売会社の社長は今月始め、そう社員を鼓舞した。主力の小型車「フィット」を発売した2013年の9月以降、受注台数と売り上げはうなぎ上りだ。12月には小型SUVの「VEZEL」も加わった。「消費増税の前に買いたい」というお客さんは少なくない。こういう時期こそ円滑にクルマを届けるのが店の役目だと息巻いていた。
この店に限らず、多くのホンダの販売会社が同じ思いを抱いていた。日本自動車工業会の統計データによれば、ホンダの国内販売台数(登録車と軽自動車の合計)は昨年11月から今年1月まで3カ月連続で増加。季節要因を除くために直前1年間の移動平均値でみると、昨年8月から右肩上がりが続いているのがはっきりとわかる。2月、3月とこの勢いはいっそう増すだろう、と誰もが疑わなかった。
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しかし、その目論見は大きく外れることになる。最初に流れを狂わせたのは2月8日(土)から9日(日)にかけて関東地域に降り積もった大雪だ。
8日の午前中。冒頭の販売店では、時間が経つごとに白一色になっていく外の景色を見ながら、スタッフが手分けして顧客に電話をかけた。「今日の点検、ご無理なさらないで下さいね」「明日の納車は日付をずらしましょうか、11日も祝日ですしね」。この週末、予約のあった20数組の顧客はほとんどが来店をキャンセルした。店自身も、交通手段の危うい従業員を早めに帰宅させた。
幸いにも雪は9日から徐々に溶け始めた。11日の建国記念日の天気予報は晴れ。「すぐに挽回できそうだ」。ほっと胸をなでおろしたのも束の間だった。
変速機制御で不具合
翌10日、ホンダはフィットとVEZELのハイブリッド車(HV)のリコールを発表した。対象車の台数は8万1353台。両車種のHVの売りだった7速DCT(デュアル・クラッチ・トランスミッション)型自動変速機(以下、DCTと呼ぶ)の制御の不具合だった。発進に時間がかかったり、ひどい時には発進できなくなったりする恐れがあるという。
DCT制御のリコールは、フィットを発売してからすでに3度目だ。ホンダの担当者から不具合を修正する新しい制御プログラムに変更できるのは2月21日だと聞かされた。それまではフィット、VEZEL両車種の出荷も停止。すでに販売店に届いていた新車も制御プログラムの修正を施さねばならない。当然、11日の納車など出来るわけがない。
納車を11日に延ばしてもらったばかりの顧客に再び連絡を取り、頭を下げた。「申し訳ありません」「21日にプログラムを修正します。22日、23日の週末に納車日を再設定させて下さい」。週末に近隣で配る新聞に挟むつもりだった折り込みチラシはフィットとVEZELが目玉。慌てて取りやめた。
すでに納車済みの顧客に連絡すると「不具合3回目ってどういうこと。今度はちゃんと直るの?」「もう他のクルマに乗り換えたい」と厳しい言葉が返ってきた。だが顧客の視点に立てば「当たり前だ」と思う。HVで低燃費だからと選んだのに、その心臓部でリコールが続いたら騙されたと思われてもおかしくない。「すみません」と繰り返すことしかできなかった。
自動車業界では、三菱自動車グループによる2000年代前半のリコール隠しが大問題になって以降、小さな不具合であっても、速やかに国土交通省にリコールを届け出て、大きな事故につながるのを未然に防ぐという考えが年々強まっている。ホンダのリコールもその考え方にのっとったものだ。だが、DCTの制御プログラムだけで半年に3回も不具合が発覚するのは過去に例がない。
「メーカーの開発を信じたいけど、正直なところ、お客さんに『今回が最後、もう再発はないです』と言いきる自信がないんです」と販売店の担当者は言う。
再び襲った大雪が追い討ち
悪い事は続く。14日(金)の昼過ぎから関東・甲信地域は再び大雪に見舞われた。フィットとVEZELは出荷停止中だが、15日(土)に予定していた軽自動車やミニバンの納車も難しいのが予見できた。実際、顧客から予約のキャンセルが相次いだ。土曜日は出社できる従業員だけで店舗の周りや近隣の歩道の雪かきをして過ごした。16日(日)はちらほらとお客さんが訪れたが、2月の頭に見込んだのと比べればごくわずかだった。
雪はホンダの生産や輸送にも影響を与えた。納車のスケジュールは遅れ始めている。販売店では12月や1月の商談時に、「増税前に間に合うならこの色にするわ」と注文を決めてくれたお客さんもいた。「間に合わなければ自社での負担を考えなければいけないかもしれない」と考え始めた矢先の18日、ホンダから再び悪い知らせが届いた。「雪で十分な走行テストができていない。リコール対策の制御プログラムの供給は21日から27日に延期する」。
くしくもこの販売店のある地域は、22日と23日の天気は晴れ。「この2日間で2週間分を挽回する」という意気込みは落胆に変わった。注文のキャンセルも出た。「どこまでお客さんを失望させるのか。複雑な新技術とはいえ、ひどすぎる」。販売会社の社長はやり場のない怒りを打ち明ける。2月はまともな事業活動をできていない。「正直言って、3月に挽回できるかもわからない」。
ホンダの販売現場は2月、大雪とリコールの対応に追われた
2月は商売にならなかった
リコールの要因は・・・
大雪はホンダの店に限らずすべての自動車販売会社、もっと言えばすべての商店や飲食店が直面した自然現象だ。しかし、リコールはホンダ固有の事情だ。
制御プログラムの相次ぐ不具合を聞いて、筆者はフィットの発売後まもなく取材したホンダの開発者の言葉を思い出した。「日本のサプライヤーさんと違って、彼らは中枢の部分を開示してくれません。それが彼らの競争力だからですが、究極のところ、わからない部分があるのも事実です」。
この開発者が語っていたのはDCTについてだった。次世代のHVシステムを作るにあたり、ホンダはDCTの大手、ドイツのシェフラーを共同開発の相手に選んだ。日本ではDCTは普及しておらず、この機構に強い部品メーカーが見当たらなかったからだ。全社的に、世界中で部品を供給できるメガサプライヤーを重視する方針も強めていた。「わからない」という言葉は引っかかったが、組む相手が変わるなかで、ホンダの開発陣も意識転換を迫られているのだと受け取った。
今、制御プログラムの不具合への対策や、不具合が相次いだ根本的な要因の分析をホンダの開発陣は必死に進めていると聞く。究明してほしいと思うし、今後に生かしてほしいと思う。激しい燃費競争のなかで新しい技術に取り組むにあたり、拙速だった面はないかも検証してほしい。
スーパーマーケットなどの流通業界では、4月の消費増税後の需要喚起策に関心が集まりつつある。自動車流通の業界でももちろん、低金利のキャンペーンなど反動減への対策を考え始める時期だ。
だからこそ余計に、ホンダの販売店の社長の言葉が忘れられない。
「増税後がどうとか考える前に、目の前のお客さんにちゃんとしたクルマを届けないと。今はそれが出来ていないんだ。取り組むべきはそれしかないよ」。
日経ビジネス
http://business.nikkeibp.co.jp/article/topics/20140224/260149/?P=1&ST=smart
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