米軍巡洋艦に中国揚陸艦が「突撃」、衝突も辞さない中国海軍の攻撃的方針
中国が東シナ海上空域に防空識別圏(運用からは制限空域)を設定したことに対して反発した日本政府や韓国政府は、日本・中国・韓国訪問中のバイデン米副大統領に対中圧力を期待した。バイデン副大統領は安部首相との会談をはじめとする日本訪問を終えて中国で習近平国家主席と会談したあと、12月5日に韓国に到着した。ちょうどその日、南シナ海で事件が発生した。
南シナ海で訓練中の中国海軍空母「遼寧」を、アメリカ海軍ミサイル巡洋艦が公海上で監視していたところ、中国海軍軍艦が停船要求信号を発しながら衝突危険距離まで急接近した。そのためアメリカ海軍巡洋艦は緊急回避行動を取り、衝突を回避した。
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この事件は、バイデン副大統領の中国訪問中は、必要以上に米中間緊張を煽らないために公表されなかった。バイデン氏がアメリカに戻り、日本で日本-ASEAN特別会議が開催されている時期に合わせた形で発表された。今度はアメリカ政府が、中国の脅威を受けている日本そしてASEAN諸国に対中非難声明を発することを期待したようである。
緊急回避行動で中国海軍揚陸艦との衝突を回避
11月29日、中国海軍空母「遼寧」はミサイル駆逐艦2隻とミサイルフリゲート2隻とともに母港である青島軍港から台湾海峡を南下して、海南島三亜に新設された空母基地に到着した。それ以降、三亜基地を本拠地にして青島から移動してきた5隻の空母艦隊に中国南海艦隊の艦艇も加わって南シナ海で各種訓練を実施していた。12月5日も、「遼寧」を中心とする中国海軍艦隊は南シナ海の公海上で訓練を実施していた。
一方、フィリピンでの巨大台風救援支援活動のためレイテ島沖で活動していたアメリカ海軍空母「ジョージ・ワシントン」を中心とするジョージ・ワシントン空母打撃群は、11月22日に救援活動を終了して日本に戻る途中、フィリピン救援活動により延期されていた海上自衛隊との共同演習を西太平洋において実施し、12月5日、母港である横須賀に帰還した。
ただし、巨大台風救援支援活動に参加していたミサイル巡洋艦「カウペンス」(最大排水量9800トン、タイコンデロガ級イージスシステム搭載ミサイル巡洋艦、母港:サンディエゴ)は、ジョージ・ワシントン艦隊と別行動をとり、南シナ海において中国海軍「遼寧」空母訓練艦隊の動向を監視する任務を遂行していた。
アメリカ海軍はカウペンス以外にも電子偵察機「EP-3」や長距離無人偵察機「グローバルホーク」などによって、「遼寧」をはじめとする中国艦隊の動向の把握に努めていた。12月5日、南シナ海公海上で訓練中の空母「遼寧」を監視していたカウペンスに、「遼寧」と行動を共にしていた中国海軍軍艦が「停船せよ」との信号を発しながら接近してきた。アメリカ海軍関係者によるとこの中国軍艦は輸送揚陸艦(LST)であったということであるため玉庭型揚陸艦(最大排水量4800トン)と考えられる。
カウペンスは、平時において公海上で他国の軍艦に対して停船要求を発するという中国海軍揚陸艦による国際ルールを無視した信号を、当然のことながら黙殺して航行を続けた。ところが中国海軍揚陸艦はカウペンスの針路を阻むようにカウペンス進行方向前方に急接近した。
カウペンスと中国海軍揚陸艦の距離が500メートルを切り衝突の可能性が大きくなったためカウペンス艦長は緊急回避行動をとり揚陸艦との衝突をかろうじて回避した。
建設中の海軍力を使用し始めた中国
この事件に関して、中国海軍を専門にする米海軍関係者やアナリストの中には、中国海軍は万一衝突によって27隻保有している輸送揚陸艦の1隻を失っても構わないとの覚悟を持ってイージス巡洋艦に肉薄させた可能性も否定できない、と中国海軍の無謀さを危惧している人々もいる。
(ある米陸軍大将が筆者に語ったところによると、大将が訪中した際の人民解放軍との宴席で、何かで興奮した人民解放軍大将がテーブルをぶっ叩きながら「アメリカはロサンゼルスが核攻撃を受けた瞬間に戦争継続は困難になるだろうが、我々はたとえ上海が核攻撃で消え去っても戦争は継続できる」と息巻いていたという。数は少なくなっているとはいえ、このような輩が存在する人民解放軍ならば、公海上でアメリカ巡洋艦に揚陸艦を体当りさせる程度の無茶をしかねない。)
今回のカウペンス事件は、2001年に中国海軍戦闘機が、海南島の海軍基地をはじめとする海南島周辺情報を収集していた米海軍EP-3電子偵察機を威嚇するため接近した中国軍戦闘機が衝突した事件と違い、カウペンスと中国海軍揚陸艦の衝突という事態は回避された。
しかし、中国側が、このような極めて危険かつ強硬な手段をもってアメリカ海軍軍艦を威嚇するのは、「南シナ海は(そして東シナ海も含んだ東アジア海域は)アメリカ海軍によって支配される海ではない。これからは中国海軍が統制する。もしアメリカ海軍がこの海域でこれまでの通りに作戦行動をとり続けたいのならば、中国海軍との間に高い緊張状態に曝されることになるであろう。それが嫌なら、この海域から出て行け」という政治的メッセージを、目に見える形で発信しようとしているためである。
1980年代後期から本腰を入れて建設が進められてきた中国人民解放軍海軍は、いまだにアメリカ海軍第7艦隊はもとより、海上自衛隊に対しても圧倒的優勢という段階に到達するには至っていない。しかし、中国海軍はその海軍力を「建設するだけ」ではなく「政治的に使用しながら建設を続ける」段階に入ったと考えられる。
このような中国海軍の強硬姿勢が習近平の中国共産党政府の統制によるものか否かにかかわらず、中国海軍をはじめとする中国軍部が、南シナ海や東シナ海で積極的行動に打って出ていることは、尖閣諸島周辺の状況や防空識別圏設定宣言、それにカウペンス事件を見ても明らかな事実である。したがって、今後は中国海軍が、南シナ海や東シナ海でアメリカ海軍や海上自衛隊の艦艇に対してカウペンス事件に類似した行動を取ることは十二分に想定しておかねばならない。
対中包容政策はもはやナンセンス
そこで、日米同盟側が歩調を揃えて、かつ腹をくくって打ち出さねばならないのは、極めて攻撃的な中国海軍をはじめとする中国海洋戦略に対する態度である。
アメリカの対中問題専門家や軍高官の中にも、「中国指導部といえども、アメリカや日本との剥き出しの衝突を望むものはいないが、露骨な対中包囲網に対しては強硬な態度を取らざるを得ない。ただし現時点における対中強硬策は得策ではなく、ある程度中国指導部の面子を保つように中国側に理解を示しつつ中国軍との不測の衝突を避けながら米中関係を進展させていくことが肝要である」といった類の包容政策を唱導する勢力も少なくない。
しかしながら、はたして国際法や国際的ルール、それに条約など自分に都合の良いものは除いて歯牙にもかけない中国共産党政府・人民解放軍を相手に包容政策が有効なのであろうか?
確かに中国政府が拠って立つように、国際法や国際的ルールなどは強国が自国の都合の良いように定めたものであるという見解は相当程度事実とは言えるかもしれない。しかし、かつて明治以降、日本が地道に長い時間をかけて不平等条約を改定していったような努力は馬鹿げた態度と見なす中国共産党政府の方針(確かにその方針の善悪は価値観の問題になってしまうのであるが)そのものが、すでに国際的ルールとは相容れない。そうである以上、そのような国際常識の存在を前提としている包容政策を中国共産党政府・軍部に期待することに無理があるのは自明である。
これら包容政策論者に対して、次のような対中強硬論も登場している。つまり、昨今ますます強硬手段に訴えている中国に対しては、「東シナ海や南シナ海において、我々の目の前で発生している様々な事件(という事実)から判断するならば、アメリカと日本は、東アジアの平和と安定を維持するために武装平和を希求する段階に立ち至っている。例えば、尖閣諸島を含んだ南西諸島を重武装したり、アメリカと日本がフィリピンの弱体な海軍・空軍力を強化する手助けをしたりするといった、中国に対しては絶対に妥協しないという態度を(口だけでなく)目に見える形で示す必要がある」といったような主張である。
最前線の当事国の1つである日本が、あやふやな態度や口先だけの強硬姿勢を示し続けていたのでは、アメリカ政府の対中姿勢も、関係当事国全てに対して等距離を取る妥協的態度が継続してしまうであろう。アメリカに対しても強硬手段を厭わない中国の攻撃的海洋戦略から日本の領域を守り抜くには、あまりに理想主義的な包容政策はきっぱり選択肢から除外する段階に立ち至っている。
http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/39466
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