米国の栄華が終わりを告げようとしている!
米金融大手のウェルズ・ファーゴが中流層に実施した最新の世論調査によると、「死ぬまで働きたい」と回答した人が37%。「80歳まで働きたい」という人は34%もおり、2項目を合わせると71%に達する。
「60歳から悠々自適の生活」は過去の遺物に
かつての60歳か65歳でリアイアしてあとは悠々自適の生活を送るという人生設計は、もはや過去のものとなりつつあるようだ。
この71%という数字は過去数年間で急激に上がってきたものだ。2年前は約50%である。
これは米国の公的年金(社会保障年金)だけでは、老後の生活を送ることが難しいことを意味してもいる。米国社会で何かが急激に変化してきている。
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読者の方は、2年前にニューヨーク市で起きた「ウォール街を占拠せよ」という抗議運動を覚えておられるだろう。米政財界への不満が爆発し、座り込みから泊まり込みへと発展し、沈静化するまで数カ月間も続いた。
背景にはバラク・オバマ政権の金融機関救済への批判や富裕層への優遇措置があった。デモ参加者が掲げたのは「我々は99%だ」というスローガンで、富裕層1%が占有する富と社会格差に対する憤懣が表出した。それは仕事が見つからない学生や失職中の人だけでなく、一般市民にも浸透した深刻な憂慮であり、憤りだった。
前出の世論調査でも、中流層の59%が月々の光熱費や住宅ローンなどの「必要経費を支払うのがやっと」の生活になっていると回答しており、「家計が厳しい」のが普通になった。さらに48%はリタイアするのに十分な貯蓄や退職プランを用意できていないと答えた。現実的に米中流層の財政状況は厳しさを増しているのだ。
こうした数字を分析すると、先の「死ぬまで働きたい」の意味は、老後に何もしないよりは仕事をしていたいというのではなく、「死ぬまで働かざるを得ない」というのが実相であることが分かる。
筆者は体験的に、多くの米国人が40歳くらいまでに億万長者になり、以後はできれば働かないで暮らしたいとの願望を持つことを知っている。米国では実際にこの望みを実現している人もいるが、限られた富裕層だけに許された生活スタイルである。
日本の老後と貯蓄はどうなのだろうか。金融広報中央委員会の世論調査では、リタイアするのに十分な貯蓄をしていないと回答した人は米国の48%に近い42%という数字だ。
男女800人を対象にしたインターネット調査によると、いつまで働くのかとの問いに対し、「65歳まで」が最も多く24%。次いで「60歳まで」が21.8%。「死ぬまで」という選択項目はなかったが、代替項目の「可能な限り働き続けたい」が19.6%でほぼ2割にとどまった。
またすぐにでもリタイアしたい人は6.1%だった。これは余生を遊んで暮らせるだけの資産がある人の割合とも受け取れるが、預金はあっても仕事をし続けたいと思う人の方が多いということである。こうして見ると、近年は米国の深刻さがより目立っている。
リーマン・ショックと住宅バブル崩壊のダブルパンチ
ウェルズ・ファーゴの退職信託部門のローリー・ノードクィスト氏が説明する。
「過去3年同じ世論調査をしていますが、月々の必要経費を支払えるかどうかを心配する人が増えているのが現実です。老後に貯蓄をしている人の割合が確実に減少しています」
この流れが続くとなると、米市民の将来に暗雲が立ちこめていると言わざるを得ない。
米景気は今ゆるやかに回復しているが、リーマン・ショックと住宅バブルの崩壊で、金融資産を大幅に目減りさせた世帯が多い。日本と比較すると、米国では資産を株式で所有する人が32%もいる。日本はわずか8%に過ぎない。
資産をキャッシュ(預金)で保持している人の割合を見ても、日本が54%であるのに対し、米国は13%。いかに金融危機や株価暴落で大きな影響を受けやすいかが分かる。
前出の世論調査では、回答者の24%はもう株式市場に自信が持てないとしている。しかも株式市場は「自分にとって利益を生み出さない」と考える人が45%に達している。さらに52%の人は「もう株には手を出したくない」と答えているのだ。
これまでの米国の主な資産運用先は株式と不動産だった。過去5年でその両方がクラッシュしたことで、実質的な資産を減らし、投資の手立てをなくしてしまった。
家を買い替えることで、より大きな家屋に転居し、さらに利益まで出せる時代は終わった。投資信託を長期間保有すれば、それで余生を豊かに送れるという神話も終焉を告げたと言っていい。
今後、米国経済が大きく持ち直しても、米国民の貯蓄と投資に対する価値観が変化しない限り、「働かざるを得ない」状況に大きな変化は訪れないだろう。
ただ苦しくなる家計とは別に、米国人の働き過ぎという現象は20年以上前から専門家に指摘されていた。
働きすぎのアメリカ人
1992年、ハーバード大学経済学部准教授だったジュリエット・ショア氏が『働きすぎのアメリカ人』を出版し、労働時間の延長とバケーションの短縮を指摘して話題になった。当時、米国人は1970年と比較し、すでに年間で約1カ月も多く働くようになっていた。
米国のホワイトカラー層の年俸はいくら残業しても変わらず、家庭よりも職場にいる時間の方がはるかに長い人が少なくない。ワーカホリックと呼ばれる人たちが増え始めた時期でもある。
ただ、この主張には反論もあり、学者の間で議論が巻き起こった。1つは、統計の取り方に偏りがあるとの指摘だ。就業者全体ではなく、いくつかのカテゴリーに分けて分類しているため、ホワイトカラーなど特定層の労働時間は延びているが、米国の就労者全体には適用できないと言われた。
確かに、筆者の周囲を見渡した時、平均的な米国人は日本人よりも休暇をはるかに多く取っている印象があった。日本の会社員や団体職員の多くは、いまだに有給休暇を消化し切れない。と言うより、有給休暇を使い切ってバケーションに出る文化を持つ組織が少ない。
さらに、米国でもパート労働者が増えており、彼らの総労働時間が正社員や正職員より多いわけがないという指摘があった。パートの割合が増えれば増えるほど、数字的には労働時間は減る傾向にあるはずだ。
それでも、近年の経済環境によって平均的な米国人の労働時間は20年前とは違う理由で長くなっているのは周知の事実である。
80歳まで、いや体が動かなくまるまで働かざるを得ないという現実に直面しているのが、今の米国の中流層の悩みである。
換言すれば、これは米国の「栄華の終わり」と言っても差し支えないかもしれない。
http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/39055
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