ブラジルで広がる社会不安、政府はインフレ退治に本腰!
(2013年11月28日付 英フィナンシャル・タイムズ紙)
サンドラ・ラポソさんは、火曜の朝に目を覚まして玄関の外で燃え尽きたバスを見つけた時、驚かなかった。日曜日以降、近所で破壊された4台目のバスだったからだ。破壊行為は週末にサンパウロの貧民街で10代の少年が警官に誤って射殺されたことに対する反応だったが、ラポソさんは、6月の集団デモやその後の散発的な抗議行動の引き金になった、お粗末な公共サービスなどの様々な問題に対する大きな不満の表れでもあったと考えている。「ここの人たちは警察に腹を立てていますが、とにかくいろんなことに不満も抱いているんだと思います」。孫息子が学校から帰ってくるのを待つ間に被害状況を確認しながら、ラポソさんはこう話す。
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高騰する生活費への不満
エコノミストらは、社会不安の根っこにあるのは高騰する生活費に対するブラジル人の不満だと言う。この認識を受け、ブラジル政府は今年、インフレと戦うために世界最大の金融引き締めサイクルに乗り出した。
ブラジルの中央銀行が昨年10月に基準となる政策金利を過去最低の7.25%に引き下げた時、それはジルマ・ルセフ大統領にとっての政治的勝利として称賛され、高い借り入れコストに長く苦しんできた国に新しい時代の到来を告げるものとなった。だが、今年4月まで金利を据え置いた後、ブラジルは5回連続で金利を引き上げ、27日にはさらに金利を0.5%引き上げて10%とし、ほぼ2年ぶりに2ケタ台に押し上げると予想されていた*1。
「利上げはジルマにとって敗北として受け止められているが、年央の抗議行動を受けて、彼女はインフレ昂進の方が大きな敗北になると考え、2つの悪い事柄のうちマシな方を選んだのだと思う」と、ブラジルの教育研究機関であるインスペール(Insper)のマクロ経済・金融担当教授マルセロ・モウラ氏は言う。
「ブラジルが低インフレと4~5%の成長を達成していたら、市民がこれまでのように街頭に出て抗議行動を起こすことはなかったのではないか」
年間インフレ率は今年3月と6月に、ブラジルが許容幅とする上限の6.5%を突破した。これは、最も貧しい家庭に最も大きな打撃を与えた食料品価格の急騰の結果でもあり、現在は5.8%になっている。2009年以降、インフレ率が4.5%の目標近くで年末を迎えたことはない。これは、ブラジルの発展の土台となってきたインフレ目標制度を乱用していると与党労働者党を非難する投資家たちの懸念材料でもある。そのため、ブラジルが今年金融政策を転換したことは、それを中央銀行の自主性が拡大した兆候と見なす多くの人たちに歓迎されている。
中央銀行のアレシャンドレ・トンビニ総裁は、中立的な実質金利――インフレ率を引いた後の、景気を刺激も抑制もしない金利――が約5%であると表明しており、総裁が6%近いインフレ率を相殺するために11%近い政策金利を望んでいることがうかがえる。持続的な成長を促すことを目標とする国々のグループ、経済協力開発機構(OECD)によれば、引き締めサイクルは「正しい方向への一歩」だという。
OECDは10月の報告書の中で、ブラジル中央銀行には正式な独立性が与えられるべきだと述べた。だが、サンパウロのブラジルみずほ銀行のチーフストラテジスト、ルチアノ・ロスタグノ氏は、このサイクルは単に国際的な要因と中央銀行を支配し続ける政府による戦略変更の結果に過ぎないと言う。
期待通りにはいかない民間投資の呼び込み
金利を過去最低水準まで引き下げることで、政府は民間投資を呼び込み、20%足らずという非常に低いブラジルの対GDP(国内総生産)投資比率を押し上げることを期待していた。だが、経済に対する国の介入を減らすことや、民間金融機関より低い金利で資金を貸し出すことで国内市場を支配するブラジルの国営銀行、国立経済社会開発銀行(BNDES)への依存度を下げることを渋る政府の姿勢もあって、期待された数十億ドルの投資は実現しなかった。
米連邦準備理事会(FRB)が金融刺激策を縮小し始めるとの見方も、投資家に世界中の新興市場、特に財政赤字と経常赤字を抱えるブラジルのような国から撤退するよう促した。成長が行き詰まっているため、政府は再び歳出拡大に動いており、これがブラジルの低金利を持続不可能なものにしている、とロスタグノ氏は言う。
通貨レアルの対ドル相場の急激な下落も輸入コストを押し上げ、インフレ圧力を強めた。6月に集団での抗議運動が発生し、ルセフ大統領が来年再選される可能性の脅威となった時、政府は方針を転換せざるを得ないと理解したという。だが、政府が支援する巨額の国家貸し付けやその他の財政的インセンティブを政府が与え続ければ、物価に対する引き締めサイクルの効果は他の国で考えられるよりも限られたものになる、とインスペールのモウラ教授は話している。
http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/39318
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